「市場分析をやったほうがいいのは分かっているけど、正直何から手をつければいいのか分からない」「本やセミナーでSWOTだの3Cだの聞いたことはあるけど、自分のお店にどう当てはめればいいのか全くイメージが湧かない」「そもそも市場分析ってコンサルや大企業がやるものであって、うちみたいな個人店には関係ない話なんじゃないか」。ローカルビジネスのオーナー様からは、こうした声を本当によく耳にします。
「毎日の営業やスタッフのシフト調整、お客様対応で手一杯で、腰を据えて市場を分析する時間なんて取れない」「一度Excelでそれっぽい表を作ってみたものの、結局どう活用すればいいのか分からず放置してしまった」「競合店の動向は何となく肌感覚で把握しているつもりだけど、それを言語化・数値化したことは一度もない」。こうした状態のまま日々の営業を続けているオーナー様は、業種を問わず非常に多いのが実情です。
実は、市場分析は決して大企業だけのものではありません。むしろ広告予算も人手も限られているローカルビジネスこそ、限られたリソースを正しい方向に投下するために市場分析が欠かせないのです。飲食店・居酒屋、パーソナルジム、学習塾、エステサロンなど、日々お客様と直接向き合う個人店・小規模チェーンだからこそ得られる「一次情報」を活かせば、大企業以上に精度の高い市場分析が可能になります。
市場分析とは、自店を取り巻く「市場規模」「市場動向」「顧客の課題」「競合情報」の4つを整理し、STPやSWOTなどの型(フレームワーク)に当てはめて考えることで、限られた予算と人員でも成果の出やすい集客施策を選び取るための土台づくりであり、特別な知識がなくても今日から始められるものです。
この記事でわかること
- 市場分析の基本的な意味と、ローカルビジネスにとってなぜ必要なのかという理由
- 市場分析で最低限押さえるべき「市場規模」「市場動向」「顧客の課題」「競合情報」という4つの視点
- 初心者でも迷わず実践できる、市場分析の進め方5ステップ
- STP分析・4C4P分析・PPM分析・5F分析・SWOT分析・PEST分析という代表的な6つのフレームワークの使い方
- 飲食店・居酒屋、パーソナルジム、学習塾、エステサロンそれぞれの具体的な数値シミュレーションと業種別の活用ポイント
そもそも市場分析とは何か。言葉の意味を整理する
市場分析とは、簡単に言えば「自社(自店)を取り巻く市場の特性や動向を調査・分析し、今後の戦略や施策の意思決定に活かすプロセス」のことです。もう少し噛み砕くと、「自分のお店が商売をしているエリアや業界には、どれくらいの見込み客がいて、どんな人たちが、どんな理由でお金を使っていて、その中で自分のお店がどのポジションを取れば勝てるのか」を客観的に把握する作業だと考えてください。感覚や経験だけに頼るのではなく、数字や事実に基づいて判断材料を揃えることが市場分析の本質です。
例えば、ある居酒屋のオーナーが「最近若い客が減った気がする」と感じたとします。この「気がする」を放置せず、実際の客層データ、周辺の人口動態、競合の出店状況、SNS上の口コミなどを調べて「なぜ若い客が減っているのか」「今後どう変化していきそうか」を裏付ける作業が市場分析です。感覚を裏付ける、あるいは感覚の誤りに気づくために市場分析を行う、という理解が初心者にとっては分かりやすいでしょう。
「マーケットリサーチ」と「マーケティングリサーチ」の違い
市場分析を学び始めると必ずぶつかるのが、「マーケットリサーチ」と「マーケティングリサーチ」という似た言葉の違いです。マーケットリサーチは「市場そのもの」を対象にした調査で、市場規模・成長率・競合状況など、業界全体・エリア全体を俯瞰する調査を指します。一方でマーケティングリサーチは、自社が実施しているマーケティング施策(広告、価格設定、商品企画など)の効果や反応を検証するための調査であり、対象がより自社の活動に近いという違いがあります。
ローカルビジネスに置き換えると、マーケットリサーチは「自店の商圏内に何人くらい住んでいて、競合が何店舗あり、業界全体の客単価相場はいくらか」を調べること、マーケティングリサーチは「自店が先月配ったチラシの反応率はどうだったか、Googleビジネスプロフィールの口コミ評価はどう変化したか」を調べることに相当します。この記事で扱う「市場分析」は主に前者のマーケットリサーチの領域を指しますが、実務上は両方をセットで回していくことになります。まずは言葉の違いに神経質になりすぎず、「外側(市場)を見るのがマーケットリサーチ」「内側(自社の施策)を見るのがマーケティングリサーチ」というざっくりした理解で十分です。
なぜローカルビジネスに市場分析が必要なのか
「うちは商圏が狭いから市場分析なんて大げさだ」と思われるかもしれませんが、実はローカルビジネスほど市場分析の効果が出やすい業態です。なぜなら、ローカルビジネスの商圏は多くの場合「半径500m〜3km」程度に限定されており、全国展開の大企業と比べて調査対象となる母数が圧倒的に少なく、少ない労力でも精度の高い分析が可能だからです。人口統計や競合店舗数、口コミといった情報も、実際に自分の足で確認できる範囲に収まっていることがほとんどです。
また、広告予算が限られているローカルビジネスにとって、「どこに」「誰に」「何を」訴求するかを外すことは致命的です。月の広告予算が3万円しかない学習塾が、闇雲にチラシを1万枚撒くのと、市場分析によって「小学校高学年の共働き世帯が多いエリア」に絞って3千枚を撒くのとでは、反応率も費用対効果も大きく変わってきます。数値シミュレーションとして、チラシ1万枚を無差別に撒いた場合の反応率が0.05%(体験申込5件)だったのに対し、ターゲットを絞った3千枚配布で反応率が0.4%(体験申込12件)まで改善したケースを想定すると、配布コストは7割減らしながら成果は倍以上になる計算です。このように、市場分析はローカルビジネスの限られた予算を「効かせる」ための土台なのです。
市場分析で押さえるべき4つの視点
市場分析と聞くと難しいフレームワークから入りたくなりますが、初心者がまず押さえるべきなのは「何を調べればよいか」という4つの基本情報です。それが「市場規模」「市場動向」「顧客の課題・ニーズ」「競合情報」の4つです。この4つさえ埋められれば、後述するフレームワークは単にそれを整理・図解するための「型」に過ぎません。逆に言えば、フレームワークだけを覚えて中身となる情報が空っぽでは、市場分析は機能しません。まずはこの4つの中身を、業種別の具体例とともに見ていきましょう。
視点1:市場規模を「TAM・SAM・SOM」で自店舗スケールに落とし込む
市場規模の分析でよく使われるのが「TAM(Total Addressable Market:獲得しうる最大の市場規模)」「SAM(Serviceable Available Market:自社が実際にアプローチ可能な市場規模)」「SOM(Serviceable Obtainable Market:現実的に自社が獲得できる市場規模)」という3つの指標です。大企業向けの概念に聞こえますが、これはそのまま「商圏人口」「見込み客数」「実際に来店してもらえる客数」という形でローカルビジネスにも当てはめられます。
例えば、都心近郊で個人経営のパーソナルジムを想定してみましょう。店舗の半径2km圏内に住む人口が5万人だとすると、これがTAMに近い数字です。そのうち「ダイエットや筋トレに関心があり、月1万円以上を自己投資できる20〜50代」という条件で絞り込むと、統計的にはおよそ8%程度が該当すると仮定すれば、SAMは4,000人程度になります。さらに、実際に「パーソナルジムに通う」という行動に踏み切る割合を仮に5%とすると、SOMは200人程度という計算です。自店の会員定員が30名だとすれば、SOM200人のうち15%を獲得できれば満席になる、という具体的な目標値が見えてきます。
同じ考え方を飲食店・居酒屋に当てはめると、TAMは商圏内の総人口、SAMは「週1回以上外食・飲酒する社会人層」、SOMは「自店の価格帯・業態を選好する層のうち実際に来店する人数」というように置き換えられます。仮に商圏人口が3万人、外食・飲酒層がその40%で12,000人、そのうち自店の価格帯(客単価3,500円の大衆居酒屋)を選ぶ層が15%だとすると、SAMは1,800人。月間で実際に来店する割合を10%と仮定すればSOMは180人となり、1日あたり6人の新規・リピート来店が「妥当な目標ライン」として算出できます。この数字が現状の実績と大きく乖離している場合、価格帯の見直しやメニュー訴求の変更が必要というシグナルになります。
学習塾の場合はTAM・SAM・SOMがさらに明確に区切りやすい業種です。商圏内の小中学生人口をTAM、そのうち学習塾への通塾意向がある家庭をSAM、自塾のカリキュラムや料金帯にマッチする家庭をSOMとすると、例えば商圏内の小中学生が2,000人、通塾率が全国平均の55%程度と仮定するとSAMは1,100人、そのうち個別指導・少人数制という自塾の特徴を好む層を20%と見積もればSOMは220人です。自塾の定員が80名なら、SOM220人のうち36%を獲得する必要があるという、かなり具体的な経営目標が導き出せます。エステサロンについても同様に、商圏内の女性人口をTAM、美容意識が高く月1万円以上を美容に投資する層をSAM、自店の施術メニュー(痩身・フェイシャル・脱毛など)に関心がある層をSOMとして絞り込むことで、闇雲な集客ではなく「あと何人獲得すればよいか」という具体的な数値目標に落とし込むことができます。
視点2:市場動向(トレンド・季節性・購買行動の変化)を捉える
市場規模が「今どれくらいの大きさか」を示すスナップショットだとすれば、市場動向は「その市場がどう変化していきているか」という時間軸の情報です。業界全体の成長率、季節による需要の波、購買行動やニーズの変化などが該当します。ローカルビジネスにおいては、全国的なマクロトレンドだけでなく、自店の商圏という「ミクロなエリア」特有のトレンドも重要になってきます。
飲食店・居酒屋であれば、全国的な傾向として「宴会需要の縮小」「家飲み・宅飲みの定着」「健康志向による低アルコール・ノンアルコール需要の増加」といったマクロトレンドがあります。これに加えて、自店の商圏特有の動向、例えば「近隣に大型オフィスビルが竣工し、平日ランチ・夜の一人飲み需要が増加している」といったミクロなトレンドも把握する必要があります。仮に周辺オフィス人口が1年で3,000人増加した場合、そのうち1%が週1回自店を利用すると仮定するだけで月間120人分、客単価3,500円なら月42万円の追加売上ポテンシャルが生まれる計算になり、業態転換やランチ営業の新設を検討する材料になります。
パーソナルジムでは「筋トレブーム」「プロテインなど健康食品市場の拡大」といったマクロトレンドに加え、季節性が非常に重要な指標です。一般的にダイエット需要は年始(正月太り解消)と初夏(薄着シーズン前)にピークを迎え、真夏や年末は需要が落ち込む傾向があります。過去の月別入会者数データを分析し、1月と5月の入会数が他の月の1.8倍程度になっているようなら、そのピーク期に合わせて広告費を集中投下する、閑散期には既存会員の継続率向上施策に注力するといった、メリハリのある予算配分が可能になります。
学習塾では少子化という長期的な逆風トレンドがある一方で、「1人当たりの教育費支出の増加」「個別指導・オンライン学習へのニーズシフト」という動向も見られます。仮に商圏内の児童数が過去5年で年平均2%減少している一方、1世帯あたりの教育費支出が年平均4%増加しているというデータがあれば、「量」で勝負するのではなく「単価」と「付加価値」で勝負する経営判断が導かれます。エステサロンでは「メンズ美容市場の拡大」「セルフケアからプロによる施術への回帰」といったトレンドがあり、これまで女性客中心だったサロンがメンズコースを新設することで新たな市場を開拓する動きも各地で見られます。
視点3:顧客の課題・ニーズをアンケート・インタビュー・口コミから把握する
市場規模や動向といったマクロなデータだけでは、実際の集客施策には落とし込めません。市場分析の中でも特に重要なのが、「顧客が何に困っていて、何を求めているのか」という一次情報です。これは既存客へのアンケートや簡単なヒアリング、Googleビジネスプロフィールやポータルサイトの口コミ分析などから収集できます。ローカルビジネスの強みは、こうした一次情報を営業活動の中で自然に、かつ低コストで集められることにあります。
例えば、あるエステサロンが会計時に簡単なアンケート(来店のきっかけ、決め手になった理由、不満に感じた点の3問程度)を3ヶ月間実施したところ、「予約の取りやすさ」への不満が回答者の32%から挙がったとします。この情報がなければ「施術メニューを増やそう」という的外れな施策に走っていたかもしれませんが、実際の課題は「予約システムの使いにくさ」にあったと分かれば、Web予約システムの導入という低コストで効果の高い改善に投資を集中できます。仮にこの改善によって予約に関する離脱率が20%から8%まで下がった場合、月間問い合わせ数を80件と仮定すると、成約数は月9.6件増える計算になり、客単価1万円なら月9.6万円、年間で約115万円の増収インパクトが見込めます。
飲食店・居酒屋では、口コミサイトのレビュー分析が有効です。星評価とあわせてテキストマイニング的に頻出単語を洗い出すと、「料理は美味しいが提供が遅い」「席が狭い」といった具体的な不満が浮かび上がることがあります。仮に低評価レビュー50件のうち60%が「提供の遅さ」に言及していたとすれば、これは調理オペレーションの改善という具体的な投資判断につながります。学習塾であれば保護者面談でのヒアリング内容を蓄積し、「成績」以上に「子どものやる気・自己肯定感」を重視する保護者が多いという傾向が見えてきた場合、指導方針や広告コピーを「成績アップ」訴求から「自信をつける指導」訴求へシフトするという意思決定材料になります。
視点4:競合情報を自分の足と目で調べる
最後の視点が競合情報です。競合のビジネスモデル、価格帯、客層、強み・弱みを把握することで、自店がどのポジションで戦うべきかが明確になります。ローカルビジネスの場合、大企業のような有料の市場調査レポートを使わずとも、実際に競合店に足を運ぶ、メニュー表や料金表を確認する、口コミサイトの評価数・評価内容を確認するといった「地道な現地調査」だけで十分に精度の高い競合情報が得られるのが強みです。
例えば、商圏内に居酒屋が自店を含めて8店舗あるとします。それぞれの客単価、口コミ件数、口コミ評価点、強みとしている料理ジャンルを一覧表にまとめるだけで、「客単価3,000円台の価格競争が激しいゾーン」と「客単価5,000円以上のこだわり業態がまだ手薄なゾーン」が見えてきます。もし自店が3,000円台の激戦区で戦っていたなら、あえて4,500円程度の価格帯にシフトし「厳選素材」「専門ジャンル特化」といった差別化を図る、という戦略転換の根拠になります。パーソナルジムであれば、競合の月謝相場(例えば商圏内平均で月額28,000円、セッション回数8回換算)を調べた上で、自店が32,000円という価格でも「マンツーマン専任トレーナー制」という差別化要素があれば価格競争に巻き込まれずに済む、という判断ができます。
学習塾では競合の授業形態(集団か個別か)、講師の質、合格実績の訴求方法を調べることが重要です。エステサロンでは競合の得意施術(痩身特化かフェイシャル特化か)、口コミの評価軸(効果重視か接客重視か)を把握することで、「同じ土俵で戦わない」ポジショニングの発見につながります。競合調査は最低でも半年に1回は実施し、価格改定や新メニューの導入がないかをチェックする習慣をつけることをおすすめします。
市場分析の進め方5ステップ|初心者でも迷わない実践フロー
4つの視点が分かったところで、実際にどういう順番で市場分析を進めればよいのか、具体的な手順を解説します。初心者がつまずきやすいのは「情報収集はしたが、それをどう使えばいいか分からない」という点です。以下の5ステップに沿って進めれば、情報収集から具体的な施策決定までを一気通貫で行うことができます。
ステップ1:分析の目的を1文で決める
最初にやるべきことは、「何のために市場分析をするのか」を1文で明確にすることです。「新メニューを出すべきか判断したい」「新規出店の立地を検討したい」「客単価を上げるべきか下げるべきか判断したい」など、目的があいまいなまま調査を始めると、集めるべき情報の範囲が定まらず、途中で挫折する原因になります。例えば学習塾であれば「小学生向けの新コース(プログラミング教室)を開設すべきか判断する」という目的を最初に定めることで、以降のステップで集めるべき情報が明確になります。
ステップ2:既存の社内データを棚卸しする
目的が決まったら、まずは新たに調査をする前に、自店に既にあるデータを整理しましょう。POSレジの売上データ、予約管理システムの顧客データ、会員台帳、口コミサイトのレビュー履歴などです。多くのローカルビジネスオーナーは「データがない」と思い込んでいますが、実際にはレジや予約システムの中に眠っている場合がほとんどです。例えばエステサロンであれば、過去1年分の予約データから「リピート率」「客単価」「メニューごとの利用比率」「曜日・時間帯別の混雑状況」を集計するだけでも、多くの気づきが得られます。
ステップ3:外部データ・現地調査で不足情報を補う
社内データだけでは市場全体を把握できないため、外部データで補完します。総務省統計局が公開する国勢調査・人口統計、e-Stat、商工会議所や自治体が発表する商圏データ、Googleマップやポータルサイトでの競合店舗数・口コミの確認などが該当します。多くは無料で入手できます。飲食店・居酒屋であれば、自治体が公表する「昼間人口」「夜間人口」データを確認するだけで、商圏がオフィス街寄りなのか住宅街寄りなのかが客観的に把握でき、ランチ営業を強化すべきか夜の宴会需要を狙うべきかの判断材料になります。
ステップ4:フレームワークに当てはめて整理する
集めた情報がバラバラのままでは意思決定に使えません。ここで初めてSTP分析やSWOT分析などのフレームワークが登場します。フレームワークは「集めた情報を整理するための箱」であり、箱を先に用意してから情報を無理やり詰め込むのではなく、情報が集まった後に整理のツールとして使うのが正しい順番です。次章で6つの代表的なフレームワークを詳しく解説します。
ステップ5:施策に落とし込み、実行後に振り返る
フレームワークで整理した結果をもとに、実際の集客施策・商品企画・価格設定などの意思決定を行います。そして忘れてはならないのが、施策実行後に「効果検証」を行うことです。市場分析は一度やって終わりではなく、施策の効果を見ながら再度データを更新し、分析をアップデートし続けるサイクルです。例えばパーソナルジムが市場分析の結果、初夏キャンペーンに広告費を集中投下したとすれば、施策実行後の入会数・獲得単価を必ず記録し、翌年の意思決定に活かすことが重要です。
市場分析に役立つ代表フレームワーク6選
ここからは、市場分析で実際によく使われる6つのフレームワークを、ローカルビジネスの現場に即して解説します。フレームワークはあくまで「思考の整理箱」であり、完璧に埋めることが目的化してしまうと本末転倒です。まずは自店に当てはまりそうなものを1つか2つ選び、実際に手を動かして埋めてみることを強くおすすめします。
1.STP分析(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
STP分析は、市場を細分化(セグメンテーション)し、狙う層を決め(ターゲティング)、その中で自店がどう見られたいかを定める(ポジショニング)という3ステップのフレームワークです。ローカルビジネスにおいて最も基本かつ重要なフレームワークと言っても過言ではありません。なぜなら、限られた予算のローカルビジネスは「万人受け」を狙うと誰の心にも刺さらない中途半端な訴求になりがちであり、STPによって狙う相手を絞り込むことが成功の鍵になるからです。
例えば学習塾の場合、セグメンテーションとして「小学生か中学生か」「受験対策か補習目的か」「集団指導志向か個別指導志向か」といった軸で市場を細分化します。次にターゲティングとして「中学受験を目指す小学4〜6年生で、個別指導を求める共働き世帯」に絞ると仮定します。最後にポジショニングとして「集団塾よりも手厚いが、家庭教師よりも安価な、部活と両立できる個別指導塾」という立ち位置を明確にします。この一連の作業により、チラシのキャッチコピーから講師の採用基準まで、全ての意思決定に一本の軸が通ります。
飲食店・居酒屋であれば「20代の宴会需要」「40代以上の少人数の落ち着いた飲み」「女性同士のランチ利用」などにセグメントを分け、例えば「30〜40代の女性同士の少人数飲み」をターゲットに定め、「隠れ家的な内装と、シェアしやすい小皿料理が充実した店」というポジショニングを取ることで、価格競争ではなく独自の立ち位置での勝負が可能になります。パーソナルジムでは「ダイエット目的」「ボディメイク・大会出場目的」「健康維持・リハビリ目的」のセグメントから「産後の体型戻しをしたい30代女性」をターゲットに選び、「同じ悩みを持つトレーナーによる女性専用ジム」というポジショニングを取れば、価格の高低ではなく共感による集客が可能になります。エステサロンも同様に、「痩身」「美肌」「脱毛」「ブライダル」といったセグメントから自店の強みが最も活きる層を選び取ることが重要です。
2.4C4P分析(顧客視点と企業視点のマーケティングミックス)
4P分析(Product:商品、Price:価格、Place:流通・立地、Promotion:販促)は企業視点でのマーケティング要素の整理法として古くから知られていますが、近年では顧客視点に立った4C分析(Customer Value:顧客価値、Cost:顧客が支払うコスト、Convenience:入手の利便性、Communication:対話)とセットで「4C4P分析」として使われることが増えています。企業視点だけでなく顧客視点でも同時にチェックすることで、独りよがりな施策を防げるのが利点です。
具体的にはPricing(価格)とCost(顧客が支払うコスト)はコインの裏表の関係にあります。例えばパーソナルジムが「月額32,000円(Price)」と設定したとき、顧客側から見た「Cost」は単なる金銭だけでなく、「通う時間的コスト」「継続する心理的負担」も含まれます。もし自店が駅から徒歩15分の立地(Place)にあるなら、価格を下げるよりも「送迎サービス」「オンラインセッションの併用」といった利便性(Convenience)向上で顧客の総コストを下げる方が効果的かもしれません。
飲食店・居酒屋では、Product(商品=メニュー)を磨くだけでなく、Customer Value(顧客価値=「特別な日を演出できる」「気軽に一人で立ち寄れる」といった体験価値)を明確にすることが重要です。学習塾ではPromotion(販促=チラシ、Web広告)を考える前に、Communication(対話=保護者面談の頻度、LINEでの学習報告)という顧客との継続的な関係構築を見直すことで、既存客の口コミ紹介が増えるケースが多く見られます。エステサロンでもPlace(立地・アクセス)とConvenience(予約の取りやすさ、施術時間の短さ)を顧客目線で棚卸しすることが、新規集客より先に取り組むべき改善点として浮かび上がることがあります。
3.PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
PPM分析は、複数の商品・サービス・事業を「市場成長率」と「市場シェア(自社の強さ)」の2軸でマッピングし、「花形(成長率もシェアも高い)」「金のなる木(成長率は低いがシェアが高く安定収益源)」「問題児(成長率は高いがシェアが低い)」「負け犬(成長率もシェアも低い)」の4象限に分類する手法です。複数のメニューやコースを持つローカルビジネスであれば、意外にそのまま活用できるフレームワークです。
例えば居酒屋であれば、「定番の焼き鳥(金のなる木:安定して売れるが目新しさはない)」「新メニューの創作和食コース(問題児:注文数は少ないが季節トレンドに乗っており今後伸びる可能性)」「久しく注文が入らない一部の単品料理(負け犬:メニューから外すか刷新すべき候補)」というように、既存メニュー表を4象限に仕分けるだけで、メニュー改定の優先順位が可視化されます。仮に全40品のメニューのうち上位10品で売上の70%を占めている一方、下位10品が全体の3%しか占めていないなら、その下位10品を思い切って整理し、代わりに「問題児」に該当する新メニューへ調理リソースを再配分するという判断ができます。
学習塾であれば、「中学受験コース(金のなる木:実績があり安定した集客源)」「プログラミング教室(問題児:今後の成長市場だが自塾ではまだ実績・認知が乏しい)」「昔からある補習コース(負け犬:需要が縮小しており見直しが必要)」というように整理することで、限られた広告予算・講師リソースをどのコースに重点配分すべきかが明確になります。パーソナルジムやエステサロンでも、複数コースを提供している場合はPPM分析によって「稼ぎ頭のコース」と「将来性はあるが今は伸びていないコース」を切り分け、投資判断の精度を高めることができます。
4.5F分析(ファイブフォース分析)
5F分析(ファイブフォース分析)は、業界の競争構造を「既存競合との競争」「新規参入の脅威」「買い手(顧客)の交渉力」「売り手(仕入先)の交渉力」「代替品の脅威」という5つの力から分析するフレームワークです。本来は業界全体の収益構造を分析する手法ですが、ローカルビジネスにおいては「自分の商圏でこの5つの脅威がどの程度強いか」を考えるだけで、価格戦略や差別化の方向性が見えてきます。
飲食店・居酒屋であれば、「新規参入の脅威」は非常に高い業種です。居抜き物件があれば比較的低コストで新規開業できてしまうため、常に新しい競合が現れる前提で差別化を考える必要があります。「代替品の脅威」としては、コンビニの惣菜やデリバリー、家飲み需要の拡大が挙げられ、これらが「外食する理由」を奪っていないかを常にチェックする必要があります。パーソナルジムでは「売り手の交渉力」、つまりフィットネス機器メーカーやプロテインなどのサプリメント卸との価格交渉力が収益性に直結しますし、「代替品の脅威」としては自宅トレーニング動画やオンラインフィットネスアプリの台頭が挙げられます。
学習塾では「買い手(保護者)の交渉力」が近年強まっている傾向があり、料金比較サイトや口コミサイトの普及により保護者が複数の塾を比較検討しやすくなっています。「代替品の脅威」としてはオンライン学習サービス、スタディサプリのような映像授業アプリが挙げられます。エステサロンでは「新規参入の脅威」として低価格の脱毛専門チェーンの出店、「代替品の脅威」として家庭用美容機器の普及が挙げられます。これら5つの力を商圏レベルで棚卸しすることで、「価格で戦うと不利になりやすい脅威」と「独自性で戦える余地」を切り分けることができます。
5.SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
SWOT分析は、自社の内部環境である「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」と、外部環境である「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を2×2のマトリクスで整理するフレームワークです。市場分析フレームワークの中でも最も知名度が高く、多くのオーナーが一度は聞いたことがあるはずです。重要なのは、単に4象限を埋めて満足するのではなく、「強み×機会」「弱み×脅威」など掛け合わせて具体的な戦略に落とし込む「クロスSWOT分析」まで行うことです。
例えばエステサロンで、強みが「10年以上の経験を持つベテラン施術者が在籍していること」、機会が「近隣にタワーマンションが竣工し富裕層の流入が見込めること」だとします。この2つを掛け合わせると、「高単価・高品質な特別コースを新設し、新規流入する富裕層に向けて訴求する」という具体的な戦略が導かれます。逆に弱みが「予約システムが電話のみでネット予約に対応していないこと」、脅威が「近隣に24時間ネット予約可能な低価格チェーンが出店したこと」だとすると、この掛け合わせからは「早急にネット予約システムを導入しないと、利便性の差で顧客が流出するリスクが高い」という危機感を持った意思決定につながります。
飲食店・居酒屋であれば、強み「地元食材の仕入れルートを持つこと」×機会「地産地消を求める消費者トレンドの高まり」から「地元食材を前面に打ち出したメニュー刷新とSNS発信」という戦略が導けます。学習塾であれば、強み「開校15年の実績と地域での認知度」×機会「近隣に新しいマンション群ができ子育て世帯が流入していること」から「地域密着の実績を訴求した新規入塾キャンペーン」が導けます。パーソナルジムでは、弱み「スタッフが1名のみで対応できる会員数に限界があること」×脅威「近隣に大手フィットネスチェーンの24時間ジムが出店したこと」から、「規模で戦わず、少人数制・完全予約制という希少性を逆手に取った高単価戦略への転換」が導かれるでしょう。
6.PEST分析(政治・経済・社会・技術)
PEST分析は、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という、自社の努力では変えられないマクロ環境要因を整理するフレームワークです。ローカルビジネスは目の前の商圏に意識が向きがちですが、実は法改正や経済動向、社会的な価値観の変化が思わぬ形で売上に影響することがあり、PEST分析はそうした「見落としがちな外部要因」に気づくために有効です。
飲食店・居酒屋であれば、政治(P)として最低賃金の引き上げや酒税法改正、経済(E)として原材料費・光熱費の高騰、社会(S)として健康志向や飲酒離れ(いわゆる「ソバーキュリアス」)の広がり、技術(T)としてモバイルオーダーやセルフレジの普及が挙げられます。仮に最低賃金が今後3年で時給50円ずつ上昇するという政治的トレンドが確定しているなら、それを見越して「省人化オペレーション」への投資判断を今のうちから進めておく必要があります。学習塾であれば、政治(P)として教育指導要領の改訂や大学入試制度の変更、経済(E)として教育費への公的補助の拡充、社会(S)として少子化やICT教育への関心の高まり、技術(T)としてオンライン授業インフラの普及が挙げられます。
パーソナルジムであれば、政治(P)として健康経営を促進する企業向け補助制度、経済(E)として可処分所得の変化、社会(S)として「人生100年時代」を背景にした健康寿命への関心の高まり、技術(T)としてウェアラブル端末による体組成データの活用が挙げられます。エステサロンであれば、政治(P)として美容医療に関する広告規制の強化、経済(E)として美容にかける消費支出の推移、社会(S)としてメンズ美容市場の拡大、技術(T)としてAIによる肌診断ツールの普及などが挙げられます。これらのマクロ要因は自店単独ではコントロールできませんが、早めに察知して備えることで、変化を脅威ではなく機会に変えることができます。
業種別・市場分析の実践シミュレーション(数値付き)
ここまで解説してきた4つの視点と6つのフレームワークを、実際に1つの業種で通しでシミュレーションするとどうなるか、架空の数値を用いて具体的に見ていきましょう。以下はあくまで説明のための仮想事例ですが、自店の実データに置き換えて考える際の参考にしてください。
飲食店・居酒屋の場合|商圏人口3万人・客単価3,500円のケース
ある駅前の大衆居酒屋を想定します。商圏人口(TAM)は半径1.5km圏内でおよそ3万人、うち週1回以上外食・飲酒をする社会人層(SAM)が40%の1.2万人、自店の価格帯・業態を選ぶ層(SOM)を15%と見積もると1,800人です。現状の月間来店数が実績で540人だとすると、これはSOMの30%に相当し、まだ伸びしろがあると判断できます。市場動向としては、近隣に新しいオフィスビルが竣工し昼間人口が増加傾向にあることが分かっています。
競合情報を調べると、商圏内に類似業態の居酒屋が5店舗あり、平均客単価は3,200円、平均口コミ評価は3.6点でした。自店は客単価3,500円、口コミ評価4.1点と、価格はやや高いものの評価は上回っています。SWOT分析でクロス集計すると、強み「口コミ評価の高さ」×機会「オフィス人口の増加」から「ランチ営業の新設によるオフィスワーカー向け訴求」という戦略が導かれます。仮にランチ営業で1日20食、客単価900円のランチメニューを提供できれば、月間売上は20食×900円×25日で45万円の追加売上が見込めます。初期投資(仕込み体制の整備等)を月10万円と仮定しても、粗利ベースで十分に採算が合う計算です。
パーソナルジムの場合|会員定員30名・月額32,000円のケース
駅から徒歩10分の立地にある個人経営のパーソナルジムを想定します。商圏人口(TAM)5万人のうち、ダイエット・筋トレに関心がある20〜50代(SAM)を8%の4,000人、実際にパーソナルジムに通う行動意欲がある層(SOM)を5%の200人と見積もります。現状の会員数は22名で、定員30名に対する充足率は73%です。SOM200人のうち11%しか自店を選んでいない計算になり、まだ獲得余地があります。
市場動向としては、初夏(5〜6月)に入会数が他の月の1.8倍になる季節性が過去データから確認されています。競合情報では、商圏内に大手フィットネスチェーンが1店舗、個人経営のパーソナルジムが2店舗あり、大手は月額9,800円という低価格、競合の個人ジムは月額35,000円前後という価格帯でした。STP分析により「産後の体型戻しをしたい30代女性」というセグメントにターゲットを絞り、「同性トレーナーによる完全個室・完全予約制」というポジショニングを明確にした結果、初夏キャンペーンで広告費15万円を投下し、新規体験申込が28件、うち成約8名という数値シミュレーションが立てられます。1名あたりの獲得コストは18,750円、月額32,000円のプランなら初月で回収でき、以降は継続分がそのまま利益に積み上がる計算です。
学習塾の場合|定員80名・小中学生対象のケース
郊外の住宅街にある個別指導塾を想定します。商圏内の小中学生人口(TAM)が2,000人、通塾意向のある家庭(SAM)を全国平均並みの55%と仮定すると1,100人、そのうち個別指導・少人数制という自塾の特徴を好む層(SOM)を20%と見積もると220人です。現状の在籍生徒数は58名で、定員80名に対して72.5%の充足率、SOM220人に対しては26%の獲得率です。
市場動向としては、商圏内の児童数が年2%減少している一方、1世帯あたりの教育費支出は年4%増加しているというデータが確認されています。競合情報では大手集団塾が1店舗、個別指導の同業チェーンが1店舗あり、大手集団塾の月謝は25,000円、同業チェーンは32,000円、自塾は28,000円という価格帯です。PPM分析でコース別に整理すると、「中学受験コース(在籍18名、金のなる木)」「通常補習コース(在籍32名、金のなる木)」「新設のプログラミング教室(在籍8名、問題児)」という構成が見えてきます。プログラミング教室は市場成長率が高い一方でまだシェアが小さいため、広告予算のうち40%をこのコースの認知獲得に振り向けるという判断が立てられます。仮に広告費20万円のうち8万円をプログラミング教室訴求に使い、体験申込が15件、成約が5名(月謝12,000円)取れれば、月間6万円の新規売上、年間72万円の増収が見込める試算です。
エステサロンの場合|個人経営・痩身特化型のケース
住宅街に位置する個人経営の痩身特化型エステサロンを想定します。商圏内の女性人口(TAM)が1.5万人、月1万円以上を美容に投資する層(SAM)を25%の3,750人、自店の痩身メニューに関心がある層(SOM)を10%の375人と見積もります。現状の月間新規来店数は12名、リピート来店を含めた月間総来店数は45名という状況です。SOM375人に対する新規獲得率は月間で3.2%程度に留まっており、伸びしろが大きいことが分かります。
顧客アンケートを実施したところ、来店動機の第1位が「口コミサイトの評価」(42%)、第2位が「知人からの紹介」(31%)という結果でした。一方で不満点としては「予約の取りにくさ」が28%を占めていました。SWOT分析では、強み「痩身施術の専門性と技術力」×機会「口コミサイトでの評価が競合より高いこと」から「口コミ獲得キャンペーンの強化」という戦略、弱み「予約が電話のみでネット予約非対応」×脅威「近隣の低価格チェーンが24時間ネット予約対応であること」から「ネット予約システムの早急な導入」という戦略の2つが導かれます。ネット予約導入によって予約に関する離脱率が仮に25%から10%に改善した場合、月間問い合わせ50件のうち成約率が15%上昇し、新規来店数が月12名から約18名に増加、客単価12,000円と仮定すると月7.2万円、年間で86万円強の増収インパクトが試算できます。
| 業種 | SOM(獲得可能客数の目安) | 現状獲得率の目安 | 有効だったフレームワーク | 想定される追加施策の増収インパクト(月間目安) |
|---|---|---|---|---|
| 飲食店・居酒屋 | 1,800人 | 約30% | SWOT分析 | 約45万円(ランチ営業新設) |
| パーソナルジム | 200人 | 約11% | STP分析 | 初月広告費回収+継続分が積み上がり |
| 学習塾 | 220人 | 約26% | PPM分析 | 約6万円(新規コースの伸長) |
| エステサロン | 375人 | 約3.2% | SWOT分析(クロス) | 約7.2万円(予約導線改善) |
市場分析でありがちな失敗と、その対策
市場分析を始めたばかりのローカルビジネスオーナーが陥りやすい失敗パターンがいくつかあります。ここでは代表的な4つの失敗とその対策を紹介します。1つ目は「情報収集だけで満足してしまい、施策に落とし込まない」という失敗です。立派な資料やグラフを作っただけで安心してしまい、実際の意思決定に活用されないケースが非常に多く見られます。対策としては、分析を始める前に「この分析結果をもとに何を決めるか」を先に決めておくことが有効です。
2つ目は「フレームワークを埋めることが目的化してしまう」という失敗です。SWOTの4象限を全て埋めようとするあまり、根拠の薄い項目まで無理に記入してしまい、結果として的外れな戦略が導かれることがあります。対策としては、埋まらない箇所は無理に埋めず「情報が不足している」という事実そのものを次の調査課題として扱うことです。3つ目は「競合を意識しすぎて自店の強みを見失う」という失敗です。競合対策ばかりに気を取られ、価格を下げる、メニューを真似るといった同質化競争に陥ると、体力の乏しいローカルビジネスは疲弊してしまいます。対策としては、SWOT分析の「強み」の欄を必ず先に埋め、自店にしかない価値を起点に戦略を組み立てることです。
4つ目は「一度分析して終わりにしてしまう」という失敗です。市場は常に変化しており、特に近年はSNSやポータルサイトの影響で顧客の行動変化のスピードが速くなっています。対策としては、最低でも半期に1回、可能であれば四半期に1回のペースで4つの視点(市場規模・市場動向・顧客の課題・競合情報)を更新する習慣をカレンダーに組み込んでおくことです。忙しい日々の業務の中では「気づいたらやろう」ではまず実行されません。あらかじめ「毎年1月と7月は市場分析の見直し月間」のように定例化してしまうことをおすすめします。
市場分析の結果をMEO対策・エリアマーケティングにつなげる
市場分析で「商圏内の顧客像」「競合状況」「顧客の課題」が明確になったら、その次にやるべきことは、実際の集客チャネルへの落とし込みです。ローカルビジネスにとって特に相性が良いのが、Googleマップ上での露出を高めるMEO(マップエンジン最適化)対策と、商圏内のターゲットに絞り込んで広告や施策を展開するエリアマーケティングです。市場分析で得た「誰に」「何を」訴求すべきかという方針がなければ、MEO対策で口コミ返信の内容を工夫することも、エリアマーケティングでチラシの配布エリアを絞り込むこともできません。
例えば市場分析の結果、「30〜40代の女性同士の少人数飲み」というターゲット像が明確になった居酒屋であれば、Googleビジネスプロフィールの写真を女性同士が楽しそうに食事している写真に差し替える、口コミへの返信文で「女性のお客様に人気の小皿料理」といったキーワードを盛り込む、といった具体的なMEO施策に落とし込めます。同様に、市場分析で「産後の体型戻しをしたい30代女性」というターゲット像が明確になったパーソナルジムであれば、エリアマーケティングとして近隣の産婦人科や子育て支援センターとの提携チラシ設置、託児サービス付き体験会の開催といった、ターゲットに刺さる具体的な施策展開が可能になります。市場分析はゴールではなく、あくまでMEO対策・エリアマーケティングという「実行フェーズ」の精度を高めるための準備段階だと捉えてください。
よくある質問
Q. 市場分析には専門知識やツールが必要ですか?
A. 高度な統計解析ツールや有料の市場調査レポートがなくても、市場分析は十分に始められます。総務省統計局のe-Stat、自治体が公表する人口統計、Googleマップやポータルサイトの競合情報、自店のPOSレジ・予約システムに蓄積されたデータなど、無料または既に手元にある情報だけで最初の一歩は十分踏み出せます。まずはExcelやスプレッドシートに手元のデータを整理することから始めてみてください。
Q. 市場分析にはどれくらいの時間がかかりますか?
A. 目的を1つに絞って取り組めば、初めての場合でも数時間から1日程度で最初の分析は完了します。例えば「新メニューを出すべきか」という1つの目的に絞り、既存データの棚卸しと簡単な競合3店舗の調査だけを行うのであれば、半日程度で意思決定に必要な材料は揃えられます。完璧を目指さず、まずは小さく始めて改善していく姿勢が重要です。
Q. SWOT分析とPEST分析はどちらを先にやるべきですか?
A. 順番としては、まずマクロ環境を俯瞰するPEST分析で外部の大きな変化を把握し、その後にSWOT分析で自社の強み・弱みと掛け合わせて具体的な戦略に落とし込むという流れが理解しやすいです。ただし、初めて取り組む場合はSWOT分析だけを単体で実施しても十分に効果があります。慣れてきたらPEST分析も組み合わせてみてください。
Q. 個人店でもTAM・SAM・SOMのような市場規模分析は必要ですか?
A. 必要です。むしろ個人店こそ、限られた広告予算をどこに使うべきかを判断するために市場規模の把握が欠かせません。厳密な統計調査でなくても構いません。自治体の人口統計とざっくりとした割合の仮定だけで構わないので、「商圏内に何人の見込み客がいて、そのうち何人を獲得すれば経営目標を達成できるか」という概算を出してみることをおすすめします。
Q. 競合調査はどこまで詳しく行うべきですか?
A. 最低限、商圏内の主要な競合3〜5店舗について、価格帯、口コミ件数・評価点、強みとしているメニューやサービスを一覧にまとめる程度で十分です。過度に詳細な調査に時間をかけすぎるよりも、まずは大まかな全体像を掴み、定期的に(半年に1回程度)更新していく方が、ローカルビジネスの実務には合っています。
Q. 市場分析の結果、自店の弱みばかりが目立ってしまいました。どうすればいいですか?
A. 弱みが明確になったこと自体が市場分析の大きな成果です。全ての弱みを一度に解決しようとせず、SWOT分析のクロス集計で「脅威と重なる弱み」を最優先課題として絞り込み、1つずつ対応していくことをおすすめします。また、弱みを補う形で強みを伸ばす戦略(弱みを克服するより強みを尖らせる)が、リソースの限られたローカルビジネスには向いている場合が多いです。
Q. 市場分析はどれくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 業種や商圏の変化スピードにもよりますが、最低でも半年に1回、可能であれば四半期に1回のペースでの見直しをおすすめします。特に競合の新規出店や価格改定、口コミ評価の変化は、気づかないうちに自店の集客に影響を与えていることがあるため、定例のタイミングを事前にカレンダーへ組み込んでおくと継続しやすくなります。
Q. フレームワークを使わずに市場分析を進めることはできますか?
A. 可能です。フレームワークはあくまで情報を整理するための補助ツールに過ぎません。「市場規模」「市場動向」「顧客の課題」「競合情報」という4つの視点で情報を集め、そこから「誰に」「何を」「どう」訴求するかを言語化できれば、必ずしもSWOTやPESTといった型に当てはめる必要はありません。ただし、初心者のうちはフレームワークを使うことで抜け漏れなく整理でき、また社内やスタッフへの説明もしやすくなるというメリットがあります。
まとめ:市場分析は「感覚」を「根拠」に変える第一歩
市場分析と聞くと、大企業やコンサルタントが行う高度な作業だと身構えてしまいがちですが、本記事で見てきた通り、その本質は「市場規模」「市場動向」「顧客の課題」「競合情報」という4つの視点を整理し、STPやSWOTといった型に当てはめて意思決定の材料にすることに尽きます。むしろ商圏が限定され、顧客との距離が近いローカルビジネスだからこそ、大企業以上に精度の高い、そして実行に移しやすい市場分析が可能です。
大切なのは、完璧な分析を目指すことではなく、まず小さく始めて、施策に落とし込み、その効果を振り返りながら継続的にアップデートしていくことです。飲食店・居酒屋であれば口コミやレジデータから、パーソナルジムであれば入会データの季節性から、学習塾であれば保護者面談の記録から、エステサロンであれば会計時の簡単なアンケートから、どの業種でも今日から始められる一次情報は必ず手元にあります。
本記事で紹介したTAM・SAM・SOMによる市場規模の算出、STP分析・4C4P分析・PPM分析・5F分析・SWOT分析・PEST分析という6つのフレームワーク、そして業種別の数値シミュレーションを参考に、まずは自店の状況を1つの図やメモに書き出してみてください。「なんとなく感じていたこと」が「根拠のある戦略」に変わった瞬間、日々の集客施策の精度は大きく変わっていくはずです。
とはいえ、日々の営業で忙しい中、これらの分析やフレームワークの活用を一人で継続していくのは簡単なことではありません。市場分析の結果を実際のMEO対策やエリアマーケティング施策に落とし込むところまで一気通貫でサポートしてほしいという場合は、専門家に相談するのも有効な選択肢です。

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