「新規出店の企画書に『市場規模』を書けと言われたけれど、TAM・SAM・SOMという言葉は聞いたことがあるだけで、実際にどう計算すればいいのか分からない……」
TAM・SAM・SOMは「全顧客数×客単価×利用回数」を出発点に、対象範囲を段階的に絞り込みながら3段階の掛け算をしていくだけで、誰でも自店の数字に落とし込んで算出できる。難しいのは概念ではなく、どの数字をどの順番で当てはめるかという「計算の手順」であり、その手順さえ押さえれば個人店でも十分に算出可能である。
- この記事でわかること
- はじめに:この記事は「計算方法」だけに絞って深掘りする
- TAM・SAM・SOMの計算式を要素分解する
- 数値シミュレーション1:パーソナルジムの新規出店
- 数値シミュレーション2:学習塾の新規出店
- 業種別に見るTAM・SAM・SOM計算のパラメータ
- 数値シミュレーション3:飲食店の新規出店
- 数値シミュレーション4:エステサロンの新規出店
- 数値シミュレーション5:居酒屋の新規出店
- 算出したSOMを出店判断に使う:損益分岐点との比較
- 計算でよくある失敗と精度を上げるコツ
- よくある質問
- Q. TAM・SAM・SOMの計算に、必ずアンケート調査が必要ですか?
- Q. SAMを絞り込む比率は、どこから持ってくればよいですか?
- Q. TAM・SAM・SOMは開業前だけでなく、開業後にも使えますか?
- Q. 客単価はどの時点の金額を使うべきですか?
- Q. 同じ商圏に複数の競合がいる場合、SOMはどう考えればよいですか?
- Q. 都度会計の業態(飲食店やエステサロン)では、月額課金の業態と計算方法が変わりますか?
- Q. TAM・SAM・SOMの数字は、金融機関への融資相談資料にそのまま使えますか?
- Q. SOMの目標シェアが業種によって1%〜3%と幅があるのはなぜですか?
- Q. 損益分岐点となる獲得人数は、どうやって逆算すればよいですか?
- Q. TAM・SAM・SOMの計算結果は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
- Q. 季節性が強い業種の場合、年間利用回数はどう扱えばよいですか?
- まとめ:計算の手順を押さえれば、TAM・SAM・SOMは個人店でも算出できる
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この記事でわかること
- TAM・SAM・SOMそれぞれの計算式と、3つの円が意味する範囲の違い
- トップダウン分析とボトムアップ分析、どちらをどの指標に使うべきかの判断基準
- パーソナルジムの新規出店を例にした、電卓だけで再現できる数値シミュレーション
- 学習塾の新規出店を例にした、通塾率データを使った数値シミュレーション
- 飲食店・居酒屋・エステサロンを含む業種別の計算パラメータの目安と、計算でよくある失敗
はじめに:この記事は「計算方法」だけに絞って深掘りする
TAM・SAM・SOMは、市場規模を分析するための数あるフレームワークのひとつにすぎない。エリア分析には6R分析や市場魅力度マトリクスなど他にも複数の切り口があり、「自店の状況ではどのフレームワークを選ぶべきか」という判断は、別の記事で詳しく整理している。まず勝てる市場の選び方フレームワーク総まとめでフレームワーク全体の使い分けを確認したうえで、「TAM・SAM・SOMを使うと決めたが、具体的にどう計算すればいいか分からない」という段階に進んだ人が本記事を読む、という役割分担にしている。
つまり本記事では「どのフレームワークを選ぶか」には触れない。TAM・SAM・SOMという3つの指標の計算式、計算の順序、実際の数値を当てはめる手順だけを、他のどの記事よりも深く、電卓片手に再現できるレベルまで分解して解説する。
3つの同心円が意味するもの
TAM・SAM・SOMは、図解では大・中・小の3つの同心円として描かれることが多い。この図は単なる装飾ではなく、それぞれの指標が「誰の集合を対象にしているか」という母集団の包含関係を表している。一番外側の円がTAM(Total Addressable Market=獲得しうる最大の市場規模)、その内側にSAM(Serviceable Available Market=自店のサービス内容や商圏で現実的に対応できる市場規模)、さらに内側の一番小さい円がSOM(Serviceable Obtainable Market=自店が実際に獲得できる、あるいは獲得を狙う市場規模)である。
重要なのは、この3つの円は「同じ集団を三段階でふるいにかけている」という点だ。TAMは業界全体の理論上の天井、SAMはそのうち自店の立地・業態・価格帯で現実的に接点を持てる層、SOMはそのうちさらに自店が実際に選ばれて契約・来店する層、という具合に、外側から内側へ向かって「本当に自店の売上になる可能性がある集団」だけが段々と絞り込まれていく。この絞り込みの過程を数字にする作業こそが、TAM・SAM・SOM分析の本質である。
なぜ3段階に分けて計算する必要があるのか
多くの個人店オーナーが最初につまずくのは、「商圏人口×客単価」のような1段階の掛け算だけで市場規模を出そうとしてしまう点だ。しかしそれではTAM(理論上の天井)しか出せず、現実の出店判断には使えない。たとえば商圏人口30万人の街にパーソナルジムを出す場合、30万人全員がジムに入会する可能性は当然ゼロに近い。ジムに関心を持つ層、実際に契約に至る層、と段階を分けて絞り込まなければ、投資判断の材料にはならない数字が出てくるだけになる。TAM・SAM・SOMを3段階に分ける理由は、この「絞り込みの解像度」を上げるためであり、それによって初めて「この立地に出店して黒字化できるのか」という経営判断に使える数字になる。
ドミナント戦略のように、狭いエリアに集中出店して市場シェアを積み上げていく出店戦略を検討している場合は、SOM(獲得できる市場規模)をどこまで積み増せるかという視点がより重要になる。ドミナント戦略のメリットと合わせて検討したい場合はドミナント戦略のメリット解説記事も参考にしてほしい。
なお、TAM・SAM・SOMという3つの指標は、必ずしも一度に全部そろえて算出しなければならないわけではない。すでに複数店舗を運営していて経験則である程度の獲得人数の見通しが立っている事業者であれば、SOMの検証だけを重点的に行い、TAM・SAMは簡易な概算にとどめるという使い方でも構わない。逆に、これから初めてこの業種に参入する事業者や、金融機関への融資相談資料として市場規模の根拠を求められている事業者は、TAMから順に丁寧に積み上げていくことで、算出過程そのものが説得力のある資料になる。自店が置かれている状況に応じて、どこに時間をかけて算出するかの濃淡をつけるとよい。
実際に図を作る手順(融資相談・社内会議で使う場合)
TAM・SAM・SOMを融資相談の資料や社内の企画会議で提示する際は、数字だけでなく3つの同心円の図を添えると理解が格段に早くなる。作り方は難しくない。スプレッドシートやプレゼンソフトの図形機能で、大・中・小の3つの円を中心を揃えて重ねて描き、外側からTAM・SAM・SOMの順に金額を書き込むだけでよい。円の大きさそのものを金額に正確に比例させる必要はなく、あくまで「絞り込みの段階」を視覚的に示すことが目的である。円の下や横に、それぞれの絞り込み条件(TAMなら商圏人口、SAMなら関心層比率、SOMなら目標獲得数)を一行で添えておくと、金融機関の担当者や社内の関係者が計算根拠を一目で追えるようになり、資料としての説得力が大きく増す。
TAM・SAM・SOMの計算式を要素分解する
計算式そのものはシンプルだが、各要素に何を代入するかで結果が大きく変わる。まずは基本の計算式を確認し、そのうえで各要素の中身をどう決めるかを解説する。
基本の計算式
TAM・SAM・SOMはいずれも「対象人数×客単価×利用頻度(年間)」という同じ形の掛け算で計算する。違うのは「対象人数」の絞り込み方だけである。
- TAM = 業界の理論上の全顧客数 ×客単価×年間利用回数
- SAM = 自店の商圏・業態に関心を持つ層の人数 ×客単価×年間利用回数
- SOM = 自店が実際に獲得を狙う顧客数 ×客単価×年間利用回数
月額会費制のジムや月謝制の学習塾のようなサブスクリプション型のビジネスの場合は、年間利用回数の代わりに「月額単価×12ヶ月」を使うと計算しやすい。一方、来店ごとに会計が発生する飲食店や居酒屋、エステサロンの場合は「1回あたりの客単価×年間来店回数」という形で計算する。自店のビジネスモデルがどちらのパターンに近いかを最初に確認しておくと、後の計算で迷わない。
計算方法その1:トップダウン分析(TAM向き)
トップダウン分析とは、総務省の人口統計や業界団体の市場規模データなど、すでに公表されているマクロな統計データを起点に、大きい数字から絞り込んでいく手法である。TAMのようにマーケット全体の天井を算出する場面で使いやすい。個人店が使う場合は、以下のような公開データを組み合わせるとよい。
- 自治体や国勢調査の年齢層別人口データ(商圏人口の把握)
- 業界団体や経済産業省の統計にある業態別の平均客単価・年間支出額
- 大手リサーチ会社が公表している業態別の市場規模レポート(無料公開されているものも多い)
トップダウン分析の長所は、自店でアンケートを取らなくても短時間で概算値が出せる点だ。短所は、あくまで全国や業界全体の平均値をベースにしているため、自店が出店する具体的な立地の実態とはズレが生じやすい点にある。そのためTAMの算出には向いているが、SAMやSOMのような「自店固有の現実的な数字」を出す場面では精度が不足しやすい。
計算方法その2:ボトムアップ分析(SAM・SOM向き)
ボトムアップ分析とは、自店の商圏内で実際にアンケート調査やヒアリングを行い、そこで得られた「関心度」「利用意向」「支払い可能額」といった生の数字を積み上げていく手法である。SAMやSOMのように「自店が現実に獲得できる範囲」を算出する場面で精度が高くなる。
ボトムアップ分析でアンケートを設計する際は、質問の具体性が結果の精度を大きく左右する。たとえば「このサービスに興味がありますか」という曖昧な質問では、社交辞令的に「興味がある」と答える人が増えてしまい、実態より過大な数字が出やすい。これに対して「このサービスを月額いくらまでなら利用したいと思いますか」「今後半年以内に契約を検討する可能性はどの程度ありますか」のように、金額や時期を具体的に問う質問に変えることで、SAM・SOMの算出に使える実態に近いデータが得られる。個人店であれば、既存顧客への簡単なアンケートや、SNSでのアンケート機能、来店時の口頭ヒアリングでも十分にボトムアップ分析の材料になる。
計算前に準備しておく3つのデータ
実際に電卓を叩き始める前に、以下の3つのデータを手元に揃えておくと、計算作業がスムーズに進む。
- 商圏人口データ:自治体の統計ページや国勢調査の小地域集計から、出店予定地を中心とした半径1〜2km圏内の人口・年齢構成を確認しておく
- 自業種の平均客単価・利用頻度データ:業界団体の統計や、自店の既存顧客の会計データ(複数店舗展開している場合は既存店の実績)を用意する
- 関心層・通塾率・通サロン率などの絞り込み比率の根拠:可能であれば商圏内での簡易アンケート結果、なければ業界団体や官公庁の統計データを探しておく
この3つが揃っていれば、TAM・SAM・SOMの計算はものの数十分で完了する。逆にこれらのデータなしに計算を始めると、途中で仮定に仮定を重ねることになり、最終的な数字の信頼性が大きく損なわれてしまう。
具体的なデータの入手先
個人店オーナーがゼロから統計データを探すのは大変に思えるかもしれないが、実際には無料で使える公的データが数多く存在する。代表的な入手先を挙げておく。
- 総務省統計局のe-Stat:国勢調査に基づく町丁目単位の人口・年齢構成データを無料で取得できる。商圏人口の算出に最も使いやすい
- 地方自治体の人口統計ページ:市区町村が独自に公表している最新の住民基本台帳人口は、国勢調査よりも新しい数字が手に入ることが多い
- 地域経済分析システム(RESAS):内閣府が提供する地域データ分析ツールで、人口動態や産業構造を地図上で確認できる
- 業界団体の統計・調査レポート:フィットネス業界、学習塾業界、外食産業、美容業界など、多くの業界団体が会員向け・一般向けに市場規模や利用実態の調査結果を公表している
- 民間調査会社の無料プレスリリース:矢野経済研究所や各種リサーチ会社が、業界別の市場規模推計を無料のプレスリリースとして公開していることが多く、TAMのトップダウン算出に活用できる
これらの公的データや業界データに、自店で実施した簡易アンケートの結果を組み合わせることで、個人店であっても十分に説得力のあるTAM・SAM・SOMを算出できる。
2つの分析手法をどう組み合わせるか
実務では、TAMはトップダウン分析で概算し、SAMとSOMはボトムアップ分析で精度を上げる、という組み合わせが最も効率的である。TAMは「そもそもこの業界・エリアにどれだけの天井があるか」という前提確認に使うものなので、多少の誤差があっても出店判断への影響は小さい。一方でSAMとSOMは「実際にいくら売上が立つか」という損益計算に直結するため、可能な限り自店の商圏で得た一次情報を反映させることが重要になる。次の章では、この考え方に沿って、パーソナルジムと学習塾を例に実際の数値を当てはめていく。
数値シミュレーション1:パーソナルジムの新規出店
架空のパーソナルジム「フィットラボ○○」が、地方中核都市の郊外エリアに新規出店を検討しているケースで、TAM・SAM・SOMを実際に計算してみる。
前提条件を整理する
出店予定地の半径2km圏内(車移動が中心の郊外エリアを想定した現実的な商圏設定)の人口は30万人。このうち、パーソナルジムの主要ターゲットとなる20歳〜59歳の人口比率を50%とすると、対象人口は15万人となる。月会費は入会金・オプションを含めた平均値で24,800円と設定する。
ステップ1:TAMを算出する(トップダウン分析)
TAMは「理論上、この商圏の対象人口全員がフィットラボ○○に入会した場合の市場規模」として算出する。
TAM=15万人×24,800円×12ヶ月=446億4,000万円
もちろん15万人全員が入会することは現実にはあり得ない。しかしこの数字を出すことで「このエリアのパーソナルジム市場の理論上の天井はこの規模である」という基準値を持てる。この基準値があるからこそ、次のSAM・SOMで「その何%を狙うのか」という現実的な議論ができるようになる。
ステップ2:SAMを算出する(ボトムアップ分析)
次に、対象人口15万人のうち「パーソナルジムの利用に関心を持ち、比較検討の候補に入れる層」を絞り込む。全国のフィットネス業界の意識調査などを参考に、この関心層の比率を15%と設定する(この比率は、自店の商圏で簡易アンケートを取ることでより精度を高められる部分である)。
SAM対象人数=15万人×15%=2万2,500人
SAM=2万2,500人×24,800円×12ヶ月=66億9,600万円
この66億9,600万円が、フィットラボ○○を含む「このエリアの全パーソナルジム事業者」が現実的に奪い合うことになる市場規模の目安となる。TAMの446億4,000万円と比べると約15%まで絞り込まれており、これが「本当にジムを検討している人の財布の合計」に近い数字だと考えてよい。
ステップ3:SOMを算出する(自社の獲得目標を数値化)
最後に、SAMのうちフィットラボ○○が実際に獲得を狙う会員数を設定する。新規出店1年目の目標会員数を300名とすると次のようになる。
SOM=300人×24,800円×12ヶ月=8,928万円
この8,928万円が、フィットラボ○○の初年度の売上目標として使える数字になる。SOMをSAMで割った66.9億円に対する比率はおよそ1.3%であり、周辺に競合ジムが複数存在する現実的な競争環境を踏まえても、新規出店1年目の獲得シェアとして無理のない水準といえる。もしこの比率が5%や10%を超えるような計画になっている場合は、集客施策や価格設定を見直すべきサインだと判断できる。
さらに2年目の目標として会員数450名を掲げるなら、SOM(2年目)=450人×24,800円×12ヶ月=1億3,392万円となり、SAMに対する比率は約2%まで上昇する見込みとなる。このように年次でSOMを再計算していくことで、単年の出店判断だけでなく、中期的な事業計画の妥当性チェックにも活用できる。
3年間のSOM成長シナリオを一覧化する
出店計画を金融機関や社内に説明する際は、単年のSOMだけでなく、複数年でどう成長させていくのかを一覧にしておくと説得力が増す。フィットラボ○○の場合、以下のような3年間の成長シナリオを描くことができる。
| 年次 | 目標会員数 | SOM(年間売上目標) | SAMに対する獲得シェア |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 300名 | 8,928万円 | 約1.33% |
| 2年目 | 450名 | 1億3,392万円 | 約2.00% |
| 3年目 | 580名 | 1億7,260万8,000円 | 約2.58% |
このように毎年の獲得シェアを一覧化しておくと、「3年目には周辺のパーソナルジム利用意向層の2.6%を獲得する計画である」というように、感覚ではなく数字で成長計画を説明できるようになる。逆に3年目の獲得シェアがSAMの10%を超えるような計画になっている場合は、競合の少ない有利な立地でない限り非現実的な計画である可能性が高く、見直しのサインとして扱いたい。
数値シミュレーション2:学習塾の新規出店
続いて、架空の学習塾「ネクストラーン○○校」が住宅街エリアに新規出店するケースで計算してみる。学習塾はジムと同じ月謝制のビジネスだが、対象人口の絞り込み方がまったく異なる点に注目してほしい。
前提条件を整理する
出店予定地の半径1.5km圏内(徒歩・自転車通塾が中心の住宅街エリア)の人口は5万人。このうち小学生〜高校生にあたる6歳〜18歳の人口比率を12%とすると、対象人口は6,000人となる。平均月謝はテキスト代等を含めて28,000円と設定する。
ステップ1:TAMを算出する
TAM=6,000人×28,000円×12ヶ月=20億1,600万円
これが「商圏内の学齢人口全員がネクストラーン○○校に通った場合」の理論上の天井である。
ステップ2:SAMを算出する
学習塾の場合、SAMの絞り込みには「通塾率」という業界特有の指標が使える。文部科学省の調査等で公表されている学校段階別の学習塾等への通塾率を参考に、対象人口のうち通塾を検討する層の比率を35%と設定する。
SAM対象人数=6,000人×35%=2,100人
SAM=2,100人×28,000円×12ヶ月=7億560万円
パーソナルジムのケースではSAMの絞り込み比率が15%だったのに対し、学習塾では通塾率という指標がそのまま使えるため35%と高めに設定できる。このように、SAMの絞り込み比率は業種によって「何をよりどころにするか」が変わるため、自業種で使える公的な統計や業界データがないかを事前に調べておくと精度が上がる。
ステップ3:SOMを算出する
ネクストラーン○○校の初年度の目標生徒数を60名とすると次のようになる。
SOM=60人×28,000円×12ヶ月=2,016万円
SAMの7億560万円に対するSOMの比率は約2.9%であり、周辺に大手学習塾チェーンと個人塾が混在する典型的な住宅街エリアでの新規開校1年目の目標としては、営業努力次第で十分に狙える水準といえる。もしこの地域にすでに強力な競合が3〜4校ある場合は、比率を1.5〜2%程度に下げて計画を保守的に見直すことも検討したい。
業種別に見るTAM・SAM・SOM計算のパラメータ
パーソナルジムと学習塾は月額・月謝制のビジネスだが、飲食店・居酒屋・エステサロンのように「都度会計」のビジネスでは、客単価と年間来店回数の考え方が変わる。以下に、ローカルビジネスの主要業種ごとに、TAM・SAM・SOMを計算する際に使うパラメータの目安をまとめた。
| 業種 | 客単価の目安 | 年間利用・来店回数の目安 | SAM絞り込み比率の考え方 | SOM目標シェア(初年度)の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 飲食店(ランチ・ディナー) | 2,500円前後 | 常連化で年6〜10回 | 商圏内で「外食を月1回以上する」層の比率(20%前後) | SAM比1〜2% |
| 居酒屋 | 3,500〜4,000円前後 | 年4〜8回 | 商圏内の飲酒習慣層・宴会需要層の比率(15%前後) | SAM比1%前後 |
| パーソナルジム | 月会費20,000〜28,000円 | 月額×12ヶ月で算出 | フィットネス関心層の比率(15%前後) | SAM比1〜2% |
| 学習塾 | 月謝25,000〜30,000円 | 月額×12ヶ月で算出 | 通塾率という統計指標がそのまま使える(30〜40%) | SAM比2〜3% |
| エステサロン | 1回あたり7,000〜9,000円 | 年4〜6回(周期来店) | 美容意識の高い層・既存の通サロン層の比率(10%前後) | SAM比3〜5% |
飲食店・居酒屋の場合の補足
飲食店や居酒屋は、ジムや学習塾のような会員契約ではなく都度利用のため、SAMを絞り込む際の「関心層」の定義がやや曖昧になりやすい。この場合は「商圏内で外食習慣がある層」という切り口ではなく、「自店の業態・価格帯に合致する外食頻度を持つ層」まで絞り込むと精度が上がる。たとえば客単価3,800円の居酒屋であれば、「月に1回以上、3,000円台の居酒屋を利用する層」という具体的な条件でアンケートを設計することで、SAMの数字がより実態に近づく。
エステサロンの場合の補足
エステサロンは客単価は低めだが来店周期が短く、年間の利用回数がリピート率によって大きく変動する業種である。TAM・SAM・SOMを計算する際は、初回来店のみの単価ではなく、平均リピート回数を反映した年間客単価(客単価×平均来店回数)で計算しないと、SOMが実態より小さく出てしまう点に注意したい。
数値シミュレーション3:飲食店の新規出店
月額課金型のジム・学習塾と異なり、飲食店やエステサロンのような「都度会計」の業態では、客単価と年間来店回数の組み立て方が変わる。ここでは架空の食堂「食堂じゅん平」が、駅前の徒歩・自転車圏に新規出店するケースで計算してみる。
前提条件を整理する
出店予定地の半径1km圏内(徒歩・自転車移動が中心の駅前住宅エリア)の人口は8万人。このうち外食のメインターゲットとなる20歳〜69歳の人口比率を70%とすると、対象人口は5万6,000人となる。客単価はランチ・ディナー平均で2,500円、常連化を見込んだ年間来店回数を8回と設定する。
ステップ1:TAMを算出する
TAM=5万6,000人×2,500円×8回=11億2,000万円
これが「対象人口全員が年8回、食堂じゅん平で食事をした場合」の理論上の天井である。飲食店は競合の絶対数が多い業態であるため、この天井の大きさに気を取られすぎないことが重要になる。
ステップ2:SAMを算出する
対象人口5万6,000人のうち、「月1回以上、2,000円台〜3,000円台の外食を利用する層」という具体的な条件で絞り込む。この関心層の比率を、周辺の外食頻度に関する簡易アンケートを踏まえて20%と設定する。
SAM対象人数=5万6,000人×20%=1万1,200人
SAM=1万1,200人×2,500円×8回=2億2,400万円
ステップ3:SOMを算出する
食堂じゅん平の初年度の目標として、年間を通じて安定的にリピートする実顧客数を200名と設定する(延べ来店客数ではなく、実際に固定客化した人数である点に注意)。
SOM=200人×2,500円×8回=400万円
SAMの2億2,400万円に対するSOMの比率は約1.8%であり、駅前という競合が多い立地条件を踏まえると、初年度の固定客化目標としては現実的な水準といえる。飲食店の場合、SOMには「新規客の初回売上」と「固定客化した顧客のリピート売上」の両方が含まれるため、開業後は両者を分けて実績集計しておくと、翌年のSOM再計算がしやすくなる。
数値シミュレーション4:エステサロンの新規出店
続いて、駅前の商業ビルに新規出店する架空のエステサロン「ビューティラボ○○」で計算してみる。エステサロンは客単価こそ低いが、周期的なリピート来店が前提のビジネスであるため、飲食店とは異なる絞り込み方になる。
前提条件を整理する
出店予定地の半径1km圏内(駅前商業エリア)の人口は4万人。メインターゲットとなる20〜59歳女性の人口比率を25%とすると、対象人口は1万人となる。客単価は1回8,000円、周期来店を見込んだ年間来店回数を5回と設定する。
ステップ1:TAMを算出する
TAM=1万人×8,000円×5回=4億円
ステップ2:SAMを算出する
対象人口1万人のうち、美容意識が高く既に何らかのサロンに通った経験がある層の比率を10%と設定する。
SAM対象人数=1万人×10%=1,000人
SAM=1,000人×8,000円×5回=4,000万円
ステップ3:SOMを算出する
ビューティラボ○○の初年度の目標客数を50名とすると次のようになる。
SOM=50人×8,000円×5回=200万円
SAMの4,000万円に対するSOMの比率は5%となる。エステサロンはSAMの絞り込み自体がかなり狭いため、その中での獲得シェアはジムや学習塾より高めの水準になりやすい。これは「エステサロンは競合が少ない」という意味ではなく、「そもそも美容意識が高い顧客層自体が限られているため、その中でどれだけ選ばれるかがより重要になる」と解釈すべき数字である。
数値シミュレーション5:居酒屋の新規出店
最後に、繁華街エリアに新規出店する架空の居酒屋「大衆酒場 十徳」で計算してみる。居酒屋は飲食店の中でも客単価が上がる一方、来店動機が「宴会」「二次会」など特定のシーンに偏りやすく、SAMの絞り込み方に固有の考え方が必要になる。
前提条件を整理する
出店予定地の半径800m圏内(繁華街の徒歩圏、会社員・近隣住民が中心)の人口は6万人。飲酒需要のメインターゲットとなる20歳〜59歳の人口比率を60%とすると、対象人口は3万6,000人となる。客単価は3,800円、年間来店回数を6回と設定する。
ステップ1:TAMを算出する
TAM=3万6,000人×3,800円×6回=8億2,080万円
ステップ2:SAMを算出する
対象人口3万6,000人のうち、「月1回以上、3,000円台の居酒屋を利用する」層の比率を15%と設定する。
SAM対象人数=3万6,000人×15%=5,400人
SAM=5,400人×3,800円×6回=1億2,312万円
ステップ3:SOMを算出する
大衆酒場 十徳の初年度の目標として、固定客化した実顧客数を60名と設定する。
SOM=60人×3,800円×6回=136万8,000円
SAMの1億2,312万円に対するSOMの比率は約1.11%となる。居酒屋は宴会需要や飲み会の幹事による一括予約など、個人客とは異なる予約経路も売上に大きく寄与するため、SOMを算出する際は「個人のリピート客」と「団体・宴会予約」を分けて別枠で積み上げると、より実態に即した目標設定ができる。
算出したSOMを出店判断に使う:損益分岐点との比較
TAM・SAM・SOMを計算して終わりにするのではなく、算出したSOM(初年度の売上目標)を、実際の固定費と比較することで初めて「この出店は成立するのか」という経営判断に使える。フィットラボ○○の例で見てみる。
固定費とSOMを突き合わせる
フィットラボ○○の年間固定費(家賃・人件費・水道光熱費・機材リース等の合計)を月550万円、年間6,600万円と想定する。先ほど算出した初年度SOMは8,928万円であった。
年間売上目標(SOM)8,928万円-年間固定費6,600万円=2,328万円
この差額がプラスであれば、SOMどおりに会員を獲得できた場合に黒字化する計算になる。逆に、初年度の会員獲得が計画の3分の2程度(会員200名)にとどまった場合はどうなるか、実際に計算してみる。
SOM(未達ケース)=200人×24,800円×12ヶ月=5,952万円
5,952万円-6,600万円=▲648万円
このように、計画の300名に対して200名しか獲得できなかった場合、固定費を下回り赤字転落する計算になる。SOMを算出する際は、常に「目標達成ケース」だけでなく「未達ケース」も併せて計算し、固定費とのクロスポイント(損益分岐点となる獲得人数)を事前に把握しておくことが、出店判断の精度を大きく左右する。
損益分岐点となる獲得人数を逆算する
フィットラボ○○の場合、年間固定費6,600万円を月会費の年額(24,800円×12ヶ月=29万7,600円)で割ると、損益分岐点となる会員数が求められる。
損益分岐点会員数=6,600万円÷29万7,600円=約222名
つまりフィットラボ○○は、SAMの2万2,500人に対してわずか約1.0%の獲得シェアを確保できれば損益分岐点に到達する計算になる。SOMの目標値である300名(シェア1.33%)は、この損益分岐点に対して約35%の安全余裕を持たせた設定であることが分かる。この「損益分岐点からの余裕度」を確認しておくことで、出店の意思決定における安全マージンを数字で説明できるようになる。
計算でよくある失敗と精度を上げるコツ
よくある失敗1:TAMだけで出店を判断してしまう
「このエリアの市場規模は400億円もあるから出店すべきだ」というように、TAMの大きさだけを根拠に出店を決めてしまうケースは非常に多い。しかしTAMはあくまで理論上の天井であり、実際に自店に入ってくる売上とは無関係な数字である。出店判断に使うべきなのは、あくまでSOM(自社が実際に獲得できる市場規模)であり、TAMは「そもそも市場自体が縮小していないか」という前提確認のためだけに使うべき数字だと理解しておく必要がある。
よくある失敗2:SAMの絞り込み根拠があいまい
SAMを算出する際の絞り込み比率を、明確な根拠なく「なんとなく2割くらいだろう」と決めてしまうケースも多い。この比率は、可能な限り自店の商圏内で得たアンケートデータや、業界団体が公表している統計データなど、何らかの裏付けを持たせることが重要である。裏付けのない比率で計算したSAMは、後から投資判断の材料として使おうとしても説得力を持たない。
よくある失敗3:客単価に一時的な割引価格を使ってしまう
オープン記念キャンペーンなど、一時的な割引価格を客単価としてTAM・SAM・SOMの計算に使ってしまうと、通常運営時の実態とかけ離れた市場規模が算出されてしまう。計算に使う客単価は、必ず「通常運営時に想定する平均客単価」を使うようにしたい。
精度を上げるコツ1:商圏人口は必ず年齢層で絞り込む
総人口をそのままTAMの対象人口に使うと、明らかに顧客になり得ない年齢層まで含んでしまい、数字が過大になる。パーソナルジムであれば20〜59歳、学習塾であれば6〜18歳というように、自業種のメインターゲットとなる年齢層で必ず絞り込んでから計算を始めることが、精度確保の第一歩になる。
精度を上げるコツ2:SAM・SOMは年1回、実績で更新する
TAM・SAM・SOMは出店前に一度計算して終わりにするものではない。開業後は実際の会員数・来店数という実績データが手に入るようになるため、年に一度は当初のアンケートベースの仮説値を実績値に置き換えて再計算することで、翌年以降の出店計画や広告予算の精度が着実に向上していく。
精度を上げるコツ3:複数店舗展開を見据えるならSOMの積み上げ方を統一する
将来的に2店舗目・3店舗目の出店を見据えている場合は、SOMを算出する際の「目標獲得シェア」の考え方を店舗間で統一しておくとよい。1号店では独自の割引施策で無理にSOMを押し上げていた場合、2号店で同じ比率をそのまま当てはめると計画が過大になる。店舗ごとの特殊要因を切り分けて、標準的な獲得シェアの基準値を社内に持っておくことが、多店舗展開時の精度維持につながる。
精度を上げるコツ4:季節性・繁忙期を年間利用回数に反映する
パーソナルジムであれば年始の新規入会シーズン、学習塾であれば新学期や受験直前期、エステサロンであれば夏前の需要期など、多くの業種には利用が集中する季節的な繁忙期が存在する。年間利用回数を単純に「月平均×12ヶ月」で計算すると、こうした季節性が均されてしまい、繁忙期に合わせた広告投下やスタッフ配置の計画に活かしにくくなる。可能であれば、年間利用回数を月別・季節別に分解し、繁忙期と閑散期でどの程度の波があるかを把握したうえでSOMを月次に按分しておくと、資金繰り計画や広告予算配分の精度がさらに向上する。特に開業初年度は開業月によって年間の到達可能な会員数・生徒数が変わってくるため、繁忙期の直前に開業できるよう出店タイミングを調整することも、SOMの達成率を左右する重要な要素になる。
感度分析:SAM絞り込み比率の仮定次第でSOMの意味合いはどう変わるか
SAMを絞り込む際の比率は、あくまでアンケートや業界データに基づく「仮定」であり、この仮定を変えるとSOMが持つ意味合いが大きく変わってくる。フィットラボ○○の例で、SAMの絞り込み比率(関心層の比率)を10%・15%・20%の3パターンで比較すると、以下のようになる。
| SAM絞り込み比率(関心層比率)の仮定 | SAM対象人数 | SAM金額 | 目標300名獲得時に必要なSAM比シェア |
|---|---|---|---|
| 10%(保守的な仮定) | 1万5,000人 | 44億6,400万円 | 約2.00% |
| 15%(採用した仮定) | 2万2,500人 | 66億9,600万円 | 約1.33% |
| 20%(強気の仮定) | 3万人 | 89億2,800万円 | 約1.00% |
この表から分かるように、SAMの絞り込み比率を強気に見積もるほど、同じ目標会員数(300名)を獲得するために必要な「SAMに対するシェア」は小さく見えてしまい、計画が楽観的に見えやすくなる。逆に言えば、SAMの絞り込み比率を保守的に設定しておけば、多少の環境変化があってもSOMの達成可能性を高めに保てる。実務では、根拠に自信が持てない場合ほど、SAMの絞り込み比率は控えめな数値を採用し、必要シェアを厳しめに見積もっておくことをおすすめする。
よくある質問
Q. TAM・SAM・SOMの計算に、必ずアンケート調査が必要ですか?
A. TAMの算出であれば、総務省の人口統計や業界団体の公表データといったトップダウン分析だけでも十分に概算できる。ただしSAM・SOMのように「自店が実際に獲得できる範囲」の精度を上げたい場合は、既存顧客への簡単なアンケートやSNSのアンケート機能など、何らかのボトムアップ的な一次情報を組み合わせることを推奨する。まったくアンケートを取らずに感覚だけでSAM・SOMを設定すると、投資判断の根拠として弱くなってしまう。
Q. SAMを絞り込む比率は、どこから持ってくればよいですか?
A. 業種によって使える情報源が異なる。学習塾であれば文部科学省の通塾率調査、フィットネス業界であれば業界団体の意識調査、飲食であれば外食産業の消費者調査など、まず業界団体や官公庁が公表している統計を探すのが第一歩になる。適切な統計が見つからない場合は、自店の既存顧客や周辺住民への簡易アンケートで代替してよい。
Q. TAM・SAM・SOMは開業前だけでなく、開業後にも使えますか?
A. むしろ開業後にこそ活用価値がある。開業前は推計値でしか計算できなかったSAM・SOMを、開業後は実際の来店数・会員数という実績データに置き換えて再計算できるようになる。年に一度、実績ベースでSOMを更新していくことで、次の出店計画や広告予算配分の精度を継続的に高めていくことができる。
Q. 客単価はどの時点の金額を使うべきですか?
A. オープン記念価格や期間限定の割引価格ではなく、通常運営時に想定する平均客単価を使うべきである。一時的な割引価格を使ってしまうと、TAM・SAM・SOMすべてが実態より小さく(あるいはキャンペーン設計次第では大きく)算出され、投資判断を誤らせる原因になる。
Q. 同じ商圏に複数の競合がいる場合、SOMはどう考えればよいですか?
A. SOMはあくまで「自店が獲得する分」を指すため、SAMを競合の数で単純に均等分割するのではなく、自店の立地優位性・価格競争力・サービス差別化の度合いに応じて現実的な獲得シェアを見積もる必要がある。新規出店1年目であれば、SAMに対して1〜3%程度の獲得シェアを目標値の目安とし、競合が多い商圏ほど保守的に設定するのが安全である。既存競合の店舗規模や公表されている会員数・座席数などから、おおよそのSAM占有率を逆算できる場合は、その数字を「競合が既に押さえている分」としてSAMから差し引いたうえで、残りの空白部分に対する自店の獲得シェアを見積もると、より精度の高いSOMになる。
Q. 都度会計の業態(飲食店やエステサロン)では、月額課金の業態と計算方法が変わりますか?
A. 基本の計算式(対象人数×客単価×年間利用回数)自体は変わらない。ただし月額課金型では「月額単価×12ヶ月」を年間の金額として使うのに対し、都度会計型では「1回あたりの客単価×年間の来店回数」を使う点が異なる。特に都度会計型の業態は、リピート率によって年間来店回数が大きく変動するため、平均リピート回数を正しく反映させることが精度確保の鍵になる。
Q. TAM・SAM・SOMの数字は、金融機関への融資相談資料にそのまま使えますか?
A. 使うこと自体は可能だが、金融機関は算出根拠の妥当性を必ず確認してくる。トップダウン分析で使った統計データの出典、ボトムアップ分析で使ったアンケートの母数や質問内容など、計算の根拠を説明できる状態にしておくことが重要である。根拠が曖昧なままSOMの数字だけを提示すると、融資審査においてかえって信頼性を損なう可能性がある。
Q. SOMの目標シェアが業種によって1%〜3%と幅があるのはなぜですか?
A. 契約の切り替えコストや商品の代替可能性が業種ごとに異なるためである。学習塾のように一度入塾すると継続率が高く、かつ地域内の選択肢が絞られやすい業種は、SAMに対する獲得シェアの目標をやや高めに設定しやすい。一方、飲食店やエステサロンのように利用先を頻繁に変えやすい業態は、獲得シェアを保守的に見積もっておくほうが計画倒れを防げる。
Q. 損益分岐点となる獲得人数は、どうやって逆算すればよいですか?
A. 年間の固定費(家賃・人件費・水道光熱費等の合計)を、1人あたりの年間客単価(月額課金型なら月額×12ヶ月、都度会計型なら客単価×年間来店回数)で割ることで、損益分岐点となる獲得人数を求められる。この人数がSAMに対して何%のシェアに相当するかを確認し、SOMの目標値がその損益分岐点シェアに対してどの程度の余裕を持っているかを見ておくと、出店判断の安全性を数字で説明できるようになる。
Q. TAM・SAM・SOMの計算結果は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 出店前の計画段階では一度算出すれば十分だが、開業後は年に1回、実績データを反映して再計算することを推奨する。特にSAMの絞り込み比率やSOMの目標シェアは、開業後に得られる実際の会員数・来店客数のデータと照らし合わせることで、翌年以降の広告予算配分や増床・多店舗展開の判断精度が着実に向上していく。
Q. 季節性が強い業種の場合、年間利用回数はどう扱えばよいですか?
A. 年間利用回数を単純平均で1つの数字にまとめるのではなく、繁忙期・通常期・閑散期に分けて月別に按分しておくとよい。パーソナルジムの新年度入会シーズンや学習塾の新学期・受験期のように、業種ごとの繁忙期に合わせてSOMを月次展開しておくことで、広告予算やスタッフ体制をピークに合わせて計画でき、年間を通じたSOMの達成率も高めやすくなる。
まとめ:計算の手順を押さえれば、TAM・SAM・SOMは個人店でも算出できる
TAM・SAM・SOMの計算は、突き詰めれば「対象人数×客単価×年間利用回数」という同じ形の掛け算を、対象人数の絞り込み方を変えながら3段階繰り返すだけの作業である。TAMはトップダウン分析で業界全体の天井を確認し、SAMとSOMはボトムアップ分析で自店の商圏に即した現実的な数字に絞り込んでいく。この順序と役割分担さえ理解していれば、パーソナルジムや学習塾のような会員制ビジネスはもちろん、飲食店・居酒屋・エステサロンといった都度会計のビジネスでも、電卓とアンケート程度の道具で十分に算出可能である。
なお、TAM・SAM・SOMはあくまで数ある市場規模分析フレームワークの中の1つであり、自店の状況によっては6R分析や市場魅力度マトリクスといった別の切り口のほうが適している場合もある。フレームワーク自体の選び方を確認したい場合は勝てる市場の選び方フレームワーク総まとめを参照してほしい。また、算出したSOMを狭いエリアで積み上げていく多店舗展開の戦略を検討している場合は、ドミナント戦略のメリット解説記事も合わせて確認することで、市場規模の算出から出店戦略の設計までを一連の流れとして計画できるようになる。
まずは自店の商圏人口とターゲット年齢層を確認するところから、今日にでも着手できる。数字が苦手だからと敬遠せず、本記事のパーソナルジム・学習塾・飲食店・居酒屋・エステサロンのシミュレーションをテンプレートとして、自店の数字に置き換えて計算してみてほしい。
最後に、本記事で解説した計算の流れを5ステップで振り返っておく。(1)商圏人口とメインターゲットの年齢層を確認してTAMの対象人数を決める、(2)自業種の平均客単価と年間利用回数を確認する、(3)トップダウン分析でTAMを算出する、(4)アンケートや業界データを使ったボトムアップ分析でSAM・SOMの絞り込み比率を決める、(5)算出したSOMを固定費や損益分岐点と突き合わせて出店判断に使う。この5ステップを一度自店で回してみるだけで、勘や経験だけに頼っていた出店判断が、数字で説明できる経営判断へと変わっていくはずである。

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